牧口いちじ ☆ 松井しのぶ 対談

 

*見えないものを伝えるということ*


毎年カレンダーでお世話になっている豊能障害者労働センターの機関紙「積み木」の紙面にて、そのカレンダーについてやあれこれ…ずっと障害者運動をされてきた牧口いちじさんとの対談をさせていただきました。何度か顔を合わせたことがあるものの、二人で対談という形式でお話しさせていただくのは初めてで、緊張していた私を気さくでユーモアあふれる言葉でリードしていただき、私のとりとめもないおしゃべりが記事になるのかと心配したものの、素敵な対談に出来上がってきました。牧口さんはじめ高柳さん、いろいろ気遣いいただいた田岡さんやスタッフの方にも感謝いたします。

松井しのぶ


牧口 以前、ピックとニックのことで、「太っちょの方がピックですか、ニックですか?」って聞いたら、松井さんが「見る人の自由にしてもろたらいいです。」と言われて、「ええっ?」と思ったんです。松井さんは、「ピックとニックやなくても、たとえば、自分の気に入った名まえでいい。ローラでもいいし、小鳥だって自分がイメージした好きな名前でいいんです。絵を見る人に勝手に名まえをつけてもらう方のが、わたしはうれしい」と言われたときに、やわらかいっていうか、なんて広い考え方の人やろうと思ったんですよ。

松井 展覧会で絵を並べているときに、子どもたちが絵の前にやって来て、自分で勝手に話を作っていくんです。「おかあさん、これはな…、この子がな、こうしてなあ、あしてな…」と。絵を描く側が枠を決めるんじゃなくて、見る側が話を作ってくれるんです。

牧口 物語が自然にできていくわけや。

松井 そうそう。わたしは、百人いれば百人の話があって、千人いたら千人の話が生まれるような絵を描きたいなぁって思っています。だから、カレンダーや詩の中にぜったいピックやニックという言葉は入れません。わたしの絵を完成させるのは、カレンダーを見てくれる人ですから。

 


(松井しのぶ)

 

おしゃべりが苦手な人も自分の考えはきちんと持っている。聞く耳のないほうがねぇ。

(牧口いちじ)


 

牧口 「肝心なものは目に見えない」という話をしましょうか。ぼくねこの言葉を初めて知ったとき、あっそうかと思ったんですよ。愛って見えへんし空気も見えへんでしょう。空気の気という字は気持ちの気で、ほかにも気を張る、気をつかう、気のつく言葉はいっぱいある。しかも案外、大事なものが多い。それでなんとなく納得してたんよね。ところが福島の原発が起こったときに、放射能も目に見えなかった。だからあんまり見えへんものはええもんやと思い込むのもなんやなあと思いながら、あらためて「星の王子さま」を読み直したんですよ。

松井 うん…

牧口 松井さんは、カレンダーの絵に表現されていないもの、目に見えないなにをみんなに見て欲しいと思っているの?

松井 (わたしの絵を)文章にたとえると、行間みたいなものかなあ。行間をいかに見えるように心をこめて描くかというのがテーマです。自分の思いを込めたものでなければ、たぶん人に伝わらないだろうと思います。

「花が咲いた」って書いてあって、花が咲いただけでしか読めてなかったらつらいかな。「花が咲いた」の裏にたとえば、おかあさんが植えた花が咲いたのか、絵やことばの中に、どんな意味、どれだけの気持ちがこもってるかを想像することが大切なかなあと…

牧口 ひょっとしたら音が出るかもわからへんね、その行間から。

松井 そうです、そうです。

牧口 ポコッとか(笑)ポッとか言って…そんな音が聞こえたらええのにな。ええのになって思うけど、本当はそんな音がないからええんやけどね。

 


松井 昔、学生の時に読んだ「赤毛のアン」。この本に「想像する余地がある」っていう言葉があって、これ、わたしの座右の銘なんです。

牧口 そうなんや。ぼくがまだ松葉杖をついてた時代のことやけど、小学生くらいの子どもがぼくの前にきて、「おっちゃん足どうしたん。歩かれへんの」と聞くんやね。で、「うん」と答えたわけ。実はぼく、小学生相手によくケンカするんやけどね、歩かれへんと言われてしまうとちょっと癪やなと思って、いきなり松葉杖でその子の前を動き回ってやったんよ。そして「今ぼくはなにをした?」と子どもに言うたら、「歩いてる」て答えたわけ。「さっき歩かれへん言うたやないか!」とぼくが問いつめたら、「歩かれへんけど歩いてんねん」と。そのひとことがぼくの座右の銘になったのね。

歩かれへんけど歩いてる。これは、見えてないけど見えてるという話にも通じるし、聴こえへんけど聴こえてる、わかれへんけどわかってるいう話にもなるでしょう。

松井 世の中って実はもっとあいまいで、もっと懐を大きく考えないといけなものなんですよね。

牧口 子どもは、ほんま自由なものの考え方をして、ありのままに生きようと思っているのにどんどんどんどん型にはめて、なんかつまらん人間にしていくのが今の社会ちがうかな。

 


牧口 松井さんの絵って、自然をテーマに選んでるのがいい。自然は絶対やからね。そのかわり大変なことも起こるけど。(東日本大震災の)津波でものすごくやられた人たちも、結局、海を見てないと生きてられへん言うてはって…。それだけ愛おしいものでもあるわけや。そこが人間の妙なところで、なんぼやられてもやっぱこれだけは許せるというものがあるんやと思うわ。

松井 自然って、善も悪もなにもないものだから、それをあるがままで受け入れていくしかないですよね。あとは、どれだけ仲良くなるかということだけじゃないですか。

牧口 自然界は輪廻やから回らなあかんわけ。ぼく死ぬときは魚に喰われたいわ。死体をどっかに流してもらって。

松井 インドのガンジス川みたいに…?

牧口 ぼくは、お返しがしたいのよ。そりゃ灰になってもお返しにはなるのはわかってるけど、そういうのをもうちょっと実感したいんや、やっぱりな…


ピック 水がなければ生きていけないけど、

    洪水や津波が大勢の命を奪う。

    自然は矛盾にみちている。

ニック 「歩けないけど歩ける」

    障害者だって矛盾がいっぱい、ある意味ね…。

ピック そんな矛盾を牧口さんは

    松井さんの絵からも感じとっているんだよ。

    見えることと見えないこと、

    行間を読んでいる。

ニック 牧口さんって、子どもが好き。

ピック 子どもとケンカするのがね。

    でもそれって、牧口さんが

    子どもの目を持っているということ。

ニック 大人なのに子ども…

ピック そもそも人は矛盾に満ちた存在なんだよ。

ニック そうだね。

 

牧口 一二・プロフィール

大阪生まれ。グラフィック・デザイナー。
被災障害者支援「ゆめ・風基金」代表理事。
障害者文化情報研究所所長。誰でも乗れる地下鉄をつくる会代表。駅にエレベーターを!福祉のまちづくり条例を!大阪府民の会代表。大阪市立大学・桃山学院大学・開西学院大学などで非常勤講師。NHK教育テレビ『きらっと生きる』の常任コメンテーターを’09年3月に卒業